早川義夫と森田童子

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一昔前のやたら悲しい日本の音楽が好きである。

最近、早川義夫 という歌手の存在を知った。 きっかけは筋肉少女帯の「人間のバラード」という曲である。 元々この曲は大好きで時々聴いていたのだが、先日また聴こうと思い検索したときに早川義夫によるカバーが見つかった。 なんでも原曲のピアノおよびバックコーラスも早川義夫だという。 いやはや気がつくのが遅かった。

その悲しい歌声に惹かれて他の曲も聴いてみたが、どれもとても暗く、ときにユーモラスで素晴らしい歌手だと思った。 個人的に楽器隊が極度に少ない形式の音楽が好きであることもあり、そこもとても気に入っている。 歌詞は非常にストレートに暗いものである。

「躁と鬱の間で」は、不安定な心の様子を痛烈にまっすぐに表現した曲である。 表現の面でも面白い部分があり、「後悔と嫌悪の連続」というネガティブな詩がメジャー調のコードで解決されることで「躁鬱感」が醸し出されている。 最近の個人的な関心は「いかにして矛盾と格闘し止揚するか」にあるので、そういった意味でもシンパシーを感じるものである。 尤も、この歌は上昇を諦めてしまっているようにも思われるのだが、諦めもまた止揚なのかもしれない。

楽器隊が少なく且つストレートに暗い歌手として 森田童子 がいる。 5年ほど前、兄と二人暮らしをしているとき、兄がなぜか昭和のヒットソングメドレーのようなものをスピーカーから垂れ流していたときに一際異彩を放っていたことをきっかけに知った。 歌手名を知ろうともスピーカーから流れた音しかヒントが無かったが、わざわざ兄に巻き戻してもらうのもなんだか恥ずかしく、聞こえてきた歌詞の断片をもとにウェブで検索して探し出したものである。

このとき聴いたのが代表曲「僕たちの失敗」である。 過去と今との引き裂かれの中で、僕だけがずっとだめなまま生き続けてきた。 そんな寂しさを感じる曲だと思う。 同じメロディーを朗々と繰り返す形式も最近のお気に入りである。

なぜこんなに暗い曲が好きなのか? あまり深く考えたことはなかったが、心から楽しいと思った経験があまり無いことが原因なのかもしれない。 何かが楽しいと思っても、どこか冷めてしまっているところがある(もちろん、それが悪いことだとは思っていない。なんならただのキモい勘違いかもしれない)。 仮にそうだとすれば、逆に楽しい音楽を聴いてもあまり何も感じることができず、暗いもの(あるいは明確な感情を超えたもの)に同情や感動を感じるのも分からなくはない。

暗いことは悪いことではない。心から充実していると思う。